「壱世さんはもう見ました? 高梨さん宛にお送りしたんですけど」
「ああ。高梨が『子育て支援政策のいいアピールになる』って俺より喜んでたよ」

「あら? 婚約者なのに、どうして胡桃さんが直接渡さないのかしら?」

十玖子の鋭いツッコミに、胡桃はギクっとする。
偽物の婚約者の二人が用事のない平日に会うことはない。

「仕事に私情は挟まないんだよ。でなきゃ取材も受けられないだろ?」
壱世は悪びれることなく堂々と嘘をつく。

「あら、そうなの」
十玖子がそれ以上詮索しなかったので、胡桃はホッと胸を撫で下ろした。

「自分の孫を褒めるのはなんだか手前味噌って感じだけれど、いい写真ね」
十玖子が表紙や中の記事の写真を見ながら言った。

「はい。うちのカメラマンもいい写真が撮れたって喜んでました」
「とくに保育園の写真がいいわね、笑顔が自然で。和子さん、ほら見て」
嬉しそうに柚木にベリビを見せる十玖子の言葉に、胡桃は「うんうん」と頷く。

「わたしも保育園の写真が一番好きです。とくに表紙の写真は笑顔が優しくて素敵で、なんていうかキラキラしてて、壱世さんのファンが増えそうです!」

胡桃はニコニコと満足げな笑みを浮かべ、素直な言葉で壱世を褒める。
「こんなにかっこいい市長は他にいないです」
写真を見ながらしみじみとつぶやく。

「あら、あなた顔が赤いんじゃない?」
壱世の顔を見た十玖子がクスッと笑って言う。

「べつに」
「胡桃さんに褒められて照れちゃったのね。かわいいところがあるじゃない」
「……」
壱世はおもしろがる十玖子に呆れたように黙り込む。
そんな彼の頬がたしかに少し赤い気がして、胡桃もなんだか恥ずかしくなってしまった。

「読者の反応が楽しみです……」

そう言って胡桃はお茶をすすった。