「やっぱり逃げようとしたんだな」
自由になった胡桃の顔と手を見たアライが言う。

「だって私、何もしてないじゃないですか！　逃がしてください！　今日のことだって誰にも言わないし」
「だめだ。信用できない」

胡桃とアライが揉み合っていると、鹿ノ川もやって来た。

「場所を移した方がいいんじゃないか？　もっと山奥とか」
鹿ノ川が胡桃の腕を引っ張る。

「やめてください！」
「大きな声を出すな」

揉み合ったまま、胡桃を外へ連れ出そうとする。

「こんなことして、市長にバレないわけないじゃない！」
〝市長〟の言葉に腹を立てた鹿ノ川が、胡桃の口を塞ごうとする。
「んー！！」
（このままじゃ——）


「胡桃！」


聞き慣れた声に一瞬で安堵する。

「壱世さ——」
「バキッ」という、何かを殴ったような音が響く。

「え？」