そこにあったのは、スマートウォッチだった。

(Wi-Fi無いのかな)

ベリが丘市内であれば、大抵の場所で無料のタウンWi-Fiが使える。
何度も使用したことのあるこのデバイスでは、電波さえキャッチできれば自動的に接続できるはずだ。

胡桃は腕を振ってみた。

(……お! ……ん? ……あ)

Wi-Fiの電波を知らせる三重の円弧のマークは、一番下の小さなものが表示されたり消えたりを繰り返している。

(少しでもつながるなら……)
胡桃は壱世にメッセージを打つことにした。

(えーっと……【胡桃です】【心配かけてごめんなさい】)
メッセージを考えて、打ち込もうとする。

【くるむ】
(あ)

【くく】
(ああ)

寒さと恐怖で手が震えてしまって、腕時計サイズの小さな画面に上手くメッセージが打ち込めない。

(もっとシンプルでわかりやすいやつ……)

【SOS】

ゆっくりと三文字を打ち込む。