咄嗟に両手で口を覆って声を出さないようにする。
心臓がバクバクと嫌な音を立てている。

「だよね、もしかしてうんこ?」
和美の言葉に朋香が大笑いする。

「ちょっとノックでもしてみようか」
ふたりが近づいてくる足音が聞こえてきて、2度ノックされた。

もちろん返事はしない。
だけど、倒れていると思って大事にされても困るから、ノックを返しておいた。

「入ってんじゃん」
「やっぱりうんこ?」

確認がすんだらすぐに出ていけばいいものを、ふたりはまだ騒いでいる。
会社のトイレを長時間使っているだけなのに、どうしてそこまで気にしてくるんだろう。

幸の背中にはダラダラと冷や汗が流れっぱなしだ。
ここで入っているのが自分だとバレたら、また部署の中で笑いものにされる。