「キ――ッ!」
「くそ、追いつかれるぞ! どうする?」
「殿下、こちらへ。馬を頼みます!」
「お、おい! くそっ、二頭立ては動かしたことが無いんだぞ――!」

 そこからのシーベルの行動は迅速だった。ただちにラルドリスに手綱を押し付けると、後部の出入り口から外へ。そこは幌に包まれた荷台となっている。

 着いてきたメルにもここまでくると、完全に追手の姿が見えた。王国の紋章が描かれた上衣を身に纏う、三人の兵士がそう遠くない場所に迫っており、剣が抜かれた。

「下がっていてください」

 鋼のぎらつきにメルが喉を鳴らしていると、シーベルは声を掛けながら既に矢をつがえている。彼が手にしているのは、よく手入れされたトネリコの弓。

「同じ国の仲間に向けたくはありませんが、ラルドリス様の命を狙う不届き者には痛い目を見せてやりませんとね!」