「皆きっと、ラルドリス様のことをちゃんと知らないだけなんですよ。怖がっているだけなんです。だから……これぞという人がいたら、あなたの方から近づいて、話しかけてみたらどうですか? 自分と仲良くしてくれないかと」
「それは、迷惑をかけることにならないか?」

 城で働く人々と同様に、ラルドリスもまた恐れているのかもしれない。王子という立場の彼が関わりをもつことで、誰かの人生を変えてしまうことを。しかし兄に立ち向かい、元の場所に戻ると決めたのならば……彼はその生まれも立場もちゃんと受け入れ、自分の武器として使いこなしていかねばならない。
そうした時、彼が自分の考えを打ち明けられるほど信頼できる人が周りに一人でも多く居るように……メルとしてはそう願うばかりだ。彼が巨大な城の中で一人孤立し、その鮮やかな瞳を翳らせてゆくところなど、想像したくなかった。

「大丈夫です。きっと、あなたに興味を持って、お話したいと思っている人は、たくさんいますよ」
「どうしてそう思う」
「それは……」

 自分だって、彼を見た瞬間に興味を抱いた。初めてその瞳を見た時の強烈な印象を未だに忘れられずにいるのだから――などと言えるはずもなく。