そういえば、フラーゲン邸に行くまでの旅でも、たびたび彼は怪しい行動をとっていた。
 店から金も払わず品物を持ちだそうとしたり、宿でも人の部屋に勝手に入ってきたり……彼にとっては、他人のものと自分のものの区別が非常にあいまいなのだろう。

 (はあ。大きな子どもみたいなものかな……)

 メルはそう自分を納得させることにした。だとしたら、彼には今のうちに色々なことを教えてあげた方がいいだろう。

「ラルドリス様、いいですか? これから外に出られる時、あなたは一個人としての意識をしっかりと持たれるべきです。いくら身分があっても、他の誰かの持ち物を勝手に奪ったり、その人の意思も確かめずなにかを強制することは、本来許されないことなのですよ?」
「そのようだな……どうやら、世間知らずという言葉は、俺のような者のためにあるらしい」

 くどくどとお説教し始めたメルに、ラルドリスは意外に素直に非を認めた。

「城ではな、皆が俺にご自由になさいませという。どこにいこうと、なにをしようと咎められることはない。決められた時間に決められたことだけをこなせば後は自由で、話す人皆が同じ微笑みを浮かべている。なんだか誰と話しても、人形のようでつまらなかったよ」