「っとっと、失言失言。いや~すみません。お若いふたりですから、もしや先日の旅の合間にそういう関係にでも、と思いまして。ははは、メル殿はお可愛らしいですからな~」

 どうやらこの男、ラルドリスの行動に気付いていながら見過ごしたようである。
 シーベルのとってつけたような誉め言葉に誤魔化されまいと、メルは冷たい睨みを効かせたが、どうやらこの騒ぎはここまでにしなければならないようだった。
 急に、シーベルの表情が真剣なものに変わったからだ。

「おふたりともすみませんが、出立の用意を。少し嫌な気配がしています」
「気配って……」
「……追手か?」

 いがみ合うのを止め、ふたりは来た道の方を振り返るが、後部の窓から見える景色は今までと変わりない平穏そのもの。
 しかしシーベルは遠くを見つめ、彼らしくなく眉根を寄せる。

「どうでしょうね。私が過敏になっているだけかもしれませんが、万が一ということもありえます。急ぎの旅でもありますし、夜まで時間はある。よく眠れたのなら先に進みましょう。では、馬を動かしますよ」
「わかった」

 その言葉に「寝覚めは散々だったけどな」と付け加えたラルドリスはどっかりと右側の長椅子前方に腰掛け、メルは彼から対角線に離れた左側後方の席に腰を落ち着ける。