「決まってるだろ。肌寒かったから暖を取ろうと思った。それだけだ」
「は……?」

 着衣から彼の付けている香水の甘い香りを感じ、熱くてどうにかなりそうだったメルの頭は……その発言で急速に冷まされた。

「こんな薄い毛布で寝て風邪でも引いたら、今後に差し支える。だからお前の寝床に身を寄せていた。それ以外の思惑などあるものか」

 床に落ちた毛布を再度寒そうに羽織るとしれっとラルドリスはのたまい……ぱくぱくと何度も口を開け閉めしていたメルは数秒後、なんとか状況を呑み込む。

「つまり……なんですか。あなたは私を抱き枕代わりにして、快眠したかっただけだと」
「当たり前だろう。誰がこんな場所で不埒な行いに臨もうなどとするものか。そのくらいの常識は弁えている」
(弁えてないっ……!)

 確かに着衣はそのままで、なにかされた様子はない。だがしかし、だ。
 やはり彼は世間知らずの王子様なのであると再認識し、メルは油断すると横面に飛んでいきそうになる手のひらを掴んだまま、あらんかぎり声を低~く抑えて言った。

「ラルドリス様……?」
「お、おぉ……なんだ」