「――――っ? いっ、いきなりなんだっ、心臓が縮み上がったぞ!」
「そ、それは、こっちの台詞です! ふざけないで!」
「うがっ!」

 馬車の長椅子の上で密着していた誰かの身体を床に突き落とすと、ドスンという音がした。混乱のあまりメルは目を白黒させる。
それも当然……たった今まで彼女を抱き締めていたのは、ラルドリスその人だったのだ。
 彼は下で腰を強く打ち付けたのか、手でさすりながらメルの方に強い眼差しを向ける。

「お、お前……俺の安らかな眠りを妨げるとは。こんな旅の間でなければ慰謝料でも払ってもらうところだっ! 説明しろ、一体なぜこんな暴力を……!」
「説明するのはそっちでしょ! どうしてあなたまでこっちにいるんです!」

 仮眠を取る前は、確かにラルドリスとは別の場所で眠ったはず。なのに目を覚ますと彼は寝床に潜り込んでいて……。顔を真っ赤にさせながらメルは衣服の胸元をかき抱く。
 一方、ラルドリスは憎らしいほど落ち着いていて、思いついたようにぽんと膝を打った。

「……ああ、安心しろ、そんなつもりは毛頭ない」
「なら、どうして……!」