(怒られる……!)
「くふっ……ふはっはっはっはっ……!!」

 つい帽子を盾に目を閉じ身構えていると……予想とは全然違う反応が男性から帰ってきた。

 なぜだか、彼は楽しそうに大きく笑っている。
 しばし膝を突き、腹を抱えるまでした後……涙目のまま、うって変わって親しみのある笑顔を覗かせメルに挨拶してくれた。

「うっくっく……や~失礼。お嬢さん、彼を送り届けてくれてありがとう。そのまま楽にしてもらっていいですよ。私の名はシーベル・フラーゲン。この王国にて公爵位と共に、ひとつの領地を預かる者です。以後お見知りいただけると、嬉しいですね」
「こ、こちらこそ、よろしくお願いします。メル…………メル・クロニアと申します」

 もしかすると実家との関わりがばれてしまうかもしれないので、もちろんここでも本名は伏せ、祖母の姓を名乗る。フラーゲン公爵シーベルはあたふたするメルに断りを入れ、寝たままのラルドリスの身体を抱え上げると、また小さく噴き出した。

「ふふ……よほどあなたの膝の上は寝心地が良かったようだ、ぐっすりでいらっしゃる。普段はあまり他人に気を許さない方なのですが」
「あ、あの……一応手当はさせていただきましたけど、ちゃんとしたお医者様に見せて差し上げた方が……」
「わかっております。では先にこのお坊ちゃまをベッドへと寝かせるとして、申し訳ないですがもう少々お付き合いいただきたい。殿下をお連れくださった経緯など、お話しいただきたいのでね」