さて、ラルドリスの傷は治りつつあるが、急ぎの旅で体は疲れている。早く休ませてあげた方がいいだろう。

 メルは彼の肩を支え、一緒に屋敷の前まで歩いてやる。
 建物を守る衛兵は近付いてくるこちらを訝しげに見ていたが、姿が確認できるようになるとすぐに目をひん剥いて寄ってきた。

「……まさか、ラ、ラルドリス殿下でございますかっ!?」
「ああ、フラーゲン公爵にはよく世話になっている。こちらは連れだ。少しばかり手傷を負わされてな……とりあえず中で休ませていただきたいと伝えてもらえるか」
(殿下ですって……!?)
「し、至急報告いたします! それまでこちらの応接室でお待ちください!」

 ただの貴族ではないのかなと思っていたが、よもや王子様とは……予想以上の高貴な身分にメルもびっくりだ。思わず支えている肩を離しそうになる。
 衛兵も彼の姿をよく知るのか直ちに応接室へと案内され、メルは途中で逃げることも叶わず彼とともに、よく沈む皮ソファに腰を落ち着けた。

 よもやこんなことになろうとは想像もしておらず……。
 緊張で震える口もそのまま、メルはラルドリスに言い訳がましい言葉をかけた。