怖気だったザハールは彼を突き放すと、苛立ちのまま戸口の近くに居たティーラの手を掴み、外へ出る。通りすがりに近くに居た使用人に居丈高に清掃を命じた。

「あん、痛いですわ……乱暴にはなさらないで」
「……す、すまん。予定外の事に苛立ってしまってな。ははは」
(は……器の小さい御方)

 取り繕いながらも顔色の優れないザハールに、ティーラは内心で溜息をついていた。
 それにしても、ラルドリスが生きて現れたのは彼女にも意外だった。しかも、以前とはどこか趣が違う……この城を去る前とは違い、瞳の奥に星のような輝きが宿っている。
 気付く者はすぐに気づくだろう……。それはきっと人を魅了してやまない意志の光。もしかすれば、これからの城内は、彼を中心として回り始めるかもしれない。

(乗り換え時かもしれないわね……)

 魔術師が彼を討ち損じた時のことを考え、ティーラは唇を噛んだ。
 ザハールに加担し、ジェナに殺人未遂の罪を着せたため、彼のティーラに対する心象は非常に悪い。それでも時間をかければ色香に惑わせ、落とす自信はある。