ザハールは一行の顔を恨みがましく見渡すと、乱暴にボルドフの腕をはたき落とし、いずこかへと去ってゆく。それに構わずラルドリスは進んで行くと、奥の建物の陰にひっそりと佇んでいた、ひとりの女性に視線をやった。
 ――メルの背が、ざわついた。

「ティーラ……。よく俺の前に顔を出せたものだな」
「ご壮健であらせられ、なにより。少々お顔付きが変わられましたかしらね」

 メルの実姉ティーラは、一行の通行を邪魔しないよう通路の端で嫣然と微笑んでいた。
 ただそうしているだけなのに、メルの呼吸は少しずつ浅くなっていく。
 美しく成長はしているものの、メルより明るい亜麻色の髪と緑の目……そしてなにより、目の奥の感情を伴わない輝きは、年を経てもそのままだ。

(本当に……間違いない。お姉様が……)
「お前も身辺の整理を進めておくことだな。過去にあった出来事も含めて」
「あら……淑女として品行方正を胸に生きて参りましたつもりですけれど。今回のことも私の正義に基づいて行動させていただいただけです。お母上のことに付いてはお気の毒ですけれど、どうしようもないことでしたわ」
「……この場での問答は無用だな。失礼する」