元々人馴れしている子だし、彼はよく餌をくれるから、懐くのが早いのだろう。

「では、ごゆっくり」

それと交換するように、シーベルは金貨が数枚入った小さな袋をメルに手渡すと、背中を向けて部屋の中に入っていった。

「――お~いメル。俺が金を持ってないの、知ってるだろ? せっかく色々な店が出てるってのに、指を咥えて見るだけなんて、俺は嫌だからな」
「今行きますってば……」

 階段の下から呼ばれて、今度こそメルはラルドリスと合流し、宿から出る。そして浮かないながらも彼の要望を尋ねてやった。

「で、いったい殿下は何をご所望されるのでしょうか? お食事ですか? 玩具ですか?」
「なんだか棘のある言い方だが、まあいい。まずは食事からだな。その後、祭りの様子をゆっくり見て回りたい。俺の場合こういう行事といったら、いつもは王子として顔にうすら笑いを貼っ付けて、手を振るばかりだったんだぞ。つまらん」