予想通り、あちこちの宿は満室になっていた。
 メルたちはいくつかの場所をたらい回しにされた後、やっとで泊る場所を確保する。その頃には時刻はもう昼に近付いていた。

「慌ただしくなりますが、明日にはこの街を発たねばなりません。私は色々と揃えておく物があるので、ここは別行動といたしましょうか。メル殿、ラルドリス様の護衛をお願いできますか?」
「えっ? 私ひとりでですか?」
「大丈夫ですよ。さすがにこの人通りだ、巻き布で髪でも隠しておけば王子だとは気づく人もいないでしょう。魔法で変装させて頂いてもよいですしね。ラルドリス様、祭りの様子を見てきたいんでしょう?」
「そ、そんなことは……」

 そう言いながらもラルドリスの瞳は、二階の窓から見える祭りの風景に強く惹きつけられている。シーベルは他意のない笑みを浮かべてそれを後押しした。

「ぜひ楽しんで来てください。普段目にできないようなものにも色々と出会えるかと思いますよ?」