不審そうに聞いてきたのはラルドリスだ。案外彼は、人の感情の変化に聡いところがある。いつもなら、気づきを褒めるべきところかもしれないが、今は余計だ。こんな自分の都合で、母の救出を待ち望む彼に不安を抱かせたくないのに。

「いえなんでも……。それより、今日の宿を見つけませんか? この盛況ぶりだと探すのにずいぶん苦労しそうですし」
「それもそうですね。ふたりともお疲れでしょう、今日は久しぶりに贅沢をしましょうか。存分に疲れを癒して下さい」
「ええ。行きましょう、ラルドリス様」
「ん? ああ……」

 シーベルも気遣ってくれたのか、さっさと方針を決めて歩き始めた。それに従い、メルは彼の背中を負う。ラルドリスの返事だけが遅れてその場に残され、所在なさそうに背中の後ろで響いた。