まさか、手紙が返ってくるとは思っていなかったから本当に嬉しかった。

そして彼女が自分の障がいと向き合い、わかった上で普通のクラスで学校生活を送りたいという気持ちも十分に伝わってきた。

手紙の相手が僕だとは知らないし、知ることはこの先ないけど、僕ではないNが彼女の支えになれるならそれでいいと思った。

だから彼女がこのクラスで平和に過ごし、楽しい学校生活を送れるようにしてあげたい。

早く嫌がらせをやめさせて、少しでもクラスに馴染ませてあげたい。

それからは毎日手紙を交換しあった。

他愛のないことを、互いに手紙に綴った。

僕は彼女のことを少しづつ知り、彼女はNである僕のことを少しづつ知っていった。

そして彼女を知る度に僕はどんどん彼女に惹かれて好きになっていった。

また彼女もNに信頼を寄せて、Nに惹かれているような気がした。

僕ではないNに恋をしているように感じた。

でも彼女はNの正体を知りたいとは言ってこなかった。

知りたくないのか、知る必要がなかったのかわからない。

普通なら手紙の相手の正体を知りたいと思うのは自然の流れだと思うし、恋心を抱いているなら尚更知りたいと思うのが当然であろう。

でも彼女は知ろうとはしなかった。


彼女と手紙を交換し始めて2周間が経った。

今日も朝イチで学校に行くと靴には砂が敷き詰められていた。

それに教室に行くと相変わらず彼女の机にはマジックで落書きがされていた。

僕は体操着を机の横のフックに引っ掛けたあと、エタノールを染み込ませた布で拭き始めた。

「やっぱり、あなただったのね」

うしろから声をかけられた。

女性の声だった。

「岩谷さん…」

同じクラスの岩谷さんだった。

岩谷さんとは中学の時から一緒だった。

その当初から彼女は男子生徒に絶大な人気を誇っていた。

同級生だけでなく先輩や後輩からも人気があった。

だからという訳ではないが、彼女には発言力が合った。

人をまとめる力があった。

それ故に彼女について行く生徒は沢山いた。

「西島くんだと思ってたわ」

「岩谷さん…やっぱり君だったんだね」

「何でそんな娘の為にそんなことをしてあげる訳?」

「それは…」

「好きなの?」

「・・・・・」

「どうして?あの娘おかしいのわかるでしょ?まともに会話が出来ないのよ。あの娘変よ」

「そんなことないよ。彼女は普通の女子高生だよ。岩谷さんと何も変わらないよ」

「あんな娘と一緒にしないで」