その日、彼女は教室に来ていつものように鞄の荷物を机の中にしまっていた。

でも直ぐに机の中の僕の手紙に気付いて辺りをキョロキョロと見回していた。

彼女の顔がみるみる赤くなっていったのが隣の席の僕にもわかった。

流石にこの場で読むことはないだろうと思っていると、彼女は手紙を封から取り出し読み出してしまった。

帰ってからゆっくり読むのではなく、この場で読み始めるとは中々面白い人だと思った。

しばらくして手紙を読み終えた彼女は肩を震わせていた。

何が起きているのか最初はわからなかったけど、肩を震わせながらうつむいている彼女から机の上に水滴が何滴もポタポタと流れ落ちていった。

彼女は涙を流して泣いていた。

そして僕の手紙を胸に押し当てギュッと抱きしめていた。

そんな彼女の姿を見ていたら、僕の目には涙が溜まり、我慢しようとしても溢れ出してしまった。

彼女は痩せたきゃしゃな体一つで学校という戦場に1人で立ち向かっていた。

17歳という、まだまだ子供の女の子がたった1人で学校という社会と向き合わなければならなかった。

苦しかったし、逃げ出したいと思っていたに違いない。

そりゃあそうだ。

全く知らない土地に引っ越してきて、全く知らない連中ばかりがいる教室に1人でやって来たんだ。

緊張したし怖かったんだと思う。

それに、彼女は吃音症というハンデを抱えている訳だから、不安だったのは言うまでもない。

今でも不安の毎日を送っていると思う。

だから僕の手紙を読んで、彼女の味方がいるということがわかって嬉しくて涙を流したのかもしれない。

最初はそれだけでいい。

彼女を大切に思っている人間が近くにいて、いつも見守っていることをわかってもらえたらいい。

それで学校に来るのが少しでも楽になれたらこれ以上嬉しいことはない。


次の日からは朝一番に教室に来て、彼女の机の中に手紙を入れるのが日課になった。

もちろん直ぐには返事は返ってくることはなく、一方通行の手紙が続くこととなった。

でも、僕は彼女が手紙を読んでいるのを隣で見ることが出来る。

好きな人が自分の書いた手紙を読んでる姿を見られることってそうそうあることじゃない。

だから嬉しかったし、満足だった。