「そっか、なら良かった。これ月に渡しといてくれる」

少女は背中に背負ったリュックから手提げ袋を取り出し僕に渡してきた。

「いいけどこれ何?」

「渡せばわかるから。よろしくね」

そして少女は去って行った。

少女の言葉をどう捉えていいのか困った。

「今の女の子は誰や?」

走り去る少女の背中に手を振っていると、月から声をかけられた。

「誰なんだろう?」

「なんやそれ?誰だかわからんで話しとったのかいな」

「これを月に渡しといてって頼まれた」

「わしにか?一体何なんや?」

月は手提げ袋の中に手を入れて中身を確認していた。

「何なの?」

「約束しとったものやった。わしが食べたいって言うたら今度買うて来たるって」

「いつそんな約束を?」

「昔のことや。あいつ憶えてくれてたんやな。それより監督がみんな集まるように言うとったぞ。早よ行こか」

「あぁ」

「なぁ、快斗。今日は負けられへんな」

「当たり前だろ。今さら何言ってるんだよ」

「今日は特別な日や。だって結菜が観に来てくれてるんやからな」

そして僕らの熱い熱いワールドカップが始まった。

三枝快斗篇 おわり