「チュッ」

えっ…

とても柔らかく甘い良い香りがした。

驚いて目を開けると少女の顔が数センチのところにあった。

彼女は頬を紅くして照れたように笑った。

その瞬間、脳裏にある場面が目に浮かんできた。

中学2年の部活帰りにコンビニから公園に寄ってベンチで眠ってしまったあの時…。

今と同じように目を開けると結菜の顔が目の前にあった。

もしかして結菜はあの時僕にキスをした…。

「まっ‥また会いに来るから」

「わざわざ日本から応援に来てくれてありがとう」

「じゃあね、試合頑張って」



「ちょっと待って!」

少女が手を振りながら走り去ろうとしたので、慌てて呼び止めた。

「何?」

「君の名前は?」

「ゆな…高梨結菜」

「結菜…」

「快斗!」

彼女は数メートル離れた場所から走って来ると、僕に抱きついてきた。

「ずっと会いたかった」

「僕もずっと会いたかった。忘れられなかった。これからだって忘れられない」

少女を抱きしめる腕に力が入っていた。

なぜこんなことを言ったのか自分でもわからない。

わからないけど、この少女を抱きしめた感触、彼女から漂う香りが結菜のものと同じだったから僕は少女と結菜を重ねてしまいそうした。

「ありがと。でも、これからは大丈夫。ずっとそばにいるから。じゃあ、バイバイ」

「バイバイ…」

「あっ‥そうだ。忘れてた」

「何かな?」

「月は元気にやってる?」

「元気って言えば元気だけど…」

少女が言う月は、今控室で選手に相手チームの分析結果を報告し、どう試合を組み立てていくのかを説明していた。

月もまた、高校卒業後はJ1リーグの東京WCと契約した。

でも月は選手としてではなくコーチとして採用された。

月の選手のデータ分析と選手を育成する能力を買われて僕と一緒にスカウトされた。

だから今も立場は違えど同じチームで闘っている。