そこで手紙は終わっていた。

最後の文字は滲んでしまっていて殆んど読めなかった。

僕の頬に涙が伝って流れ落ちた。

結菜をワールドカップの試合に連れて行くと決めたあの日から決して流すことのなかった涙が流れ落ちた。

そしてわかったことがあった。

僕は今でも結菜が好きだということ。

今でも忘れられずに心の中にいるということが。

それにしても結菜は最後に何て書こうとしていたのだろう?

何を伝えたかったのだろう?

考えても思いつかなかった。

「快斗、結菜ちゃんをワールドカップの決勝に連れて行ってあげようぜ」

「はい」

武田さんは僕の心中を察してくれたのか、僕の肩を抱きながらそう言ってくれた。

会場に着いて控室で目をつぶり集中力を高めていると、誰かに呼ばれたような気がした。

「快斗くん、スポンサー様がお見えになってるよ」

「わかりました」

コーチの木内さんがドアを開けて僕を呼んでいた。

「三枝くん、スポンサーにはくれぐれもよろしく言っといてくれよ。あのスポンサーには相当な資金を援助してもらってるんだからな」

「はい」

それから控室を直ぐに出てその人のもとに向かった。

「お待たせ」

「私を何分待たせるおつもりなのかしら?」

前回のワールドカップから日本代表のスポンサーになってくれていた白川家の奈未ちゃんだった。

僕の所属するJ1リーグの東京WCのスポンサーにもなってくれていた。

「ごめん」

「まぁ、いいわ。それよりコンディションはどうなの?」

「すごく調子はいいよ」

「だったら必ず勝ちなさいよ。私の会社がスポンサーをやってあげてるんだから」

「必ず勝つよ」

「結菜さんと白川家のために頼むわよ」

「もちろん」

奈未ちゃんとは高校卒業後も食事に行ったり、夜景を見にドライブに行ったり、素敵なバーでお酒を飲んだりして良い関係を続けていた。

だからと言って、別に恋人でもないし、付き合おうとする訳でもなかった。

僕はサッカー一筋だし、奈未ちゃんも白川家の会社の会長に就任して世界中を駆け回っているようなバリバリのキャリアウーマンになっていた。

いつからか、男性女性と言うよりも、仕事相手と言うか何でも話せる親友になっていた。

「じゃあ、私は試合をVIP ROOMで観させてもらうわね」

「うん、大会が終わって落ち着いたら、また飲みにでも行こうよ」

「いいわよ、じゃあね」

奈未ちゃんは手を振りながら歩いて行ってしまった。

その隣には相変わらず柊木さんがいて、僕に会釈をしてくれた。