「あるって言えばあるけど…でも僕は行かない。2人の問題は2人で解決したほうがいい。だてに9年間という長い時間一緒にいた訳じゃないんだから、香澄の気持ちが1番わかる詩織さんに全てを任せてしまった方が賢明だと思う」

今となっては、たとえ香澄の記憶が蘇ったところで、本当のお母さんの記憶なんて殆んどと言っていいほど香澄自身には残っていない訳だから、香澄の中のお母さんは詩織さん以外に存在しないのかもしれない。

「快斗がそう言うんやったらしゃあないけど…」

「あのさ…月…」

そこまで言って、口を開くのを無理矢理に止めた。

「何やねん?言いたいことあるならハッキリ言いや。わしとお前の仲やぞ。隠し事なんかしたってしゃあないやろ。まぁ、お前さんが隠し事なんかしたって、わしには全てお見通しやけどな」

「1つ聞きたいことがあるんだけど…僕と月って何なんだろう?」

「はぁ?何やねん、その質問は?ふざけとんのか?わしらは小学3年の時からずっと親友やないか。わしはお前に教室で初めて会った瞬間に、お前に一目惚れしてん。コイツは絶対に親友になる人間や。絶対に離したらあかん思た。今でもわしにはお前しかおれへん思てんで」

今の月の言葉で、僕と月が一緒にいた9年間という長い長い日々を思い起こせた。

僕らが一緒にいた時間は誰かにやらされたものでも何でもなく、僕ら自身が選んだもの。

それは何者にも邪魔できない、壊すことの出来ない絆であり、2度とほどけない程の強固な結びつきなのだ。

「よくそんなこっぱずかしいセリフを普通の顔して言えたもんだよ」

「恥ずかしいことなんて何一つない。わしの本心やさかい」