奈未ちゃんと区役所で別れてから自転車を転がしながら歩いていると、遠くから走ってくる制服姿の学生が目に入ってきた。

「快斗!」

彼は僕の姿を見つけると、大声で僕を呼んできた。

その声に応えるべく手を振って合図をした。

「どうしたのさ?」

「お前が突然おれへんようになるから、ずっと探しとったんや。ただ事ちゃうこと起こってるって直ぐにわかったで」

「学校から走ってきたのか?」

「まぁな…」

「大丈夫なのか?」

「何のことや?」

「いや、何でもない」

慌てて来たのだろう。

心臓のことを忘れてダッシュで走ってくるなんて油断しすぎだろ。

でも、今までにも、こうしたことは幾度とあった。

最近だと、思い出したくもないけど結菜の誕生日…

僕と月が病室で誕生日プレゼントを渡し、一緒にケーキを食べたあの日…

そして月が先に帰ったあと結菜の心臓が突然止まり、どうしたらいいかわからなくてパニックになって月に電話をした時…

月は今日のように走って戻って来た。

心臓病を演じてきたことなど何もなかったかのように全力疾走でやって来た。

月は僕と結菜の身に何かあった時、我を忘れて助けに来てくれる。

まるでヒーローのようで本当に頼もしかったのを憶えている。

「そうか。せやったらええんやけど。それより一体何があってん?」

「実は本当のお母さんが死んでしまっていること、つまり詩織さんが香澄のお母さんではないことが知られてしまったんだ。そして香澄には兄がいて、その人物こそが僕だということ」

「どないすんねん?快斗が兄やとわかったところで驚きはするけど、いずれ受け入れられる思う。せやけど、おかんのことは別や。相当驚き、とんでもないくらいショックを受ける思うねん。ほんで、香澄ちゃんは今どないしてんのや?」

「奈未ちゃんの話だと、詩織さんが香澄を連れてどこかに行ってしまったらしい」

「せやったら、快斗も2人のそばにおってあげた方がええ。2人が行きそうな場所に心当たりはあれへんのか?」