「奈未ちゃん、ありがとう。ずっと僕を想っていてくれて。本当に嬉しいし幸せだよ」

「まぁ、あなたが天才的に鈍感なのは知ってたし。結菜さんのあなたを見つめる眼差しであなたに恋をしているのは直ぐにわかった。彼女が私のライバルになることも想像できた。まさか、ここまでとは思わなかったけど」

「ちょっと待って。僕たちのことをいつから知ってたの?」

「ずっと見てきたわよ。あなたが小学3年生で奥多摩のお祖母様の家に引っ越した時から」

「えっ…」

余りに驚いて奈未ちゃんを抱きしめる腕を解いていた。

「僕らの様子を近くで監視していた人がいるってこと?」

「そうかもしれないわね」

「もしかして…」

疑ってはいない。

誰よりも信頼しているし、信頼されていると思っている。

何があっても僕らの関係は揺らぐことはないし、これから先、何があっても変わることはない。

僕の世界でたった1人の親友……月。

どんなものよりどんな人よりも大切でかけがえのない人。

一生親友として一緒に生きて行きたい人。

ただ、不思議に思っていたと言うか気づいていたこともあった。

月は心臓病なんかではない。

確かな証拠があった訳ではないけど間違いなくそうだと思う。

つまり月は心臓病を装ってたことになる。

何の理由があってそんな嘘をつくのかが理解できなかった。

でも今気づいた。

月は小学生の時から、いつも僕の様子をスマホで撮影していた。

それは僕の映像を奈未ちゃんに送るため…。

そして僕を撮影するためには、僕と同じ土俵に立つのではなく一歩引いた場所で撮るしかなかった。

「月が僕と友達になったのは初めから仕組まれていたということ?」

「私も最近になるまで彼の存在は知らなかった。知っていたならそんなことはさせなかった。彼の父親は白川家に仕える幹部の人間。関西一帯は彼の父親が任されているそうよ。それであなたの見張り役として、あなたと同じ歳の彼に白羽の矢がたったらしいわ」

「そんな…そんなことのために月の人生を台無しにしてしまったなんて…月にだって夢ややりたいことだってあったはずなのに…」

ショックでその場に膝から崩れ落ちた。

怒りと悔しさで涙が溢れ、地面を濡らした。