あんなことを言ったあとだったのでスゴく気まずいし、何を話せば良いのかわからなかった。

駐車場に停まっているロールスロイスに近づくにつれて気持ちがどんよりと重くなった。

トントン――

「何かしら?私に何か言いたいことでも?」

後部座席のドアをノックすると、窓ガラスが開いて中から奈未ちゃんが僕を睨みつけるようにそう言った。

「少し話がしたいんだけど…」

「私はあなたと話すことなんて特になくってよ」

「このままでいいから聞いて。さっきはごめん。ヒドいことを言って…」

「別に気にしてないわ。あなたが言いたいことはわかったし。私はウソつきで、あなたには好きな女子がいるのよね?」

「好きな人がいるのは否定しないよ…」

「そう…」

奈未ちゃんは前を向いたまま、僕と視線を合わせようとはしなかった。

「奈未ちゃんがF高校に入学してくるって聞いた時は本当に嬉しかった。嬉しかったけどどうしたらいいかわからなくなった。僕には好きな人がいるから」

「稲葉結菜さん。彼女のことよね?」

「どうしてその名前を?」

「私が彼女を知っていようが知っていまいが、あなたには関係ないわ」

「関係なくない。僕は奈未ちゃんと出会って……奈未ちゃんを好きになった。初恋だった。だから、奈未ちゃんが留学してから、ずっと会いたかった。会いたくて仕方なかった。会いたくて奈未ちゃんのニューヨークの住所を聞きに何度か白川家を尋ねた。でも教えてくれなくて…それでも会いたくて1度だけ会いに行ったことがあったんだ」

「・・・・・・。続けてちょうだい」

「偶然、柊木さんに会うことが出来て、テニスをする奈未ちゃんを見ることが出来た。乗馬クラブで一緒に馬を走らせることも出来た」

「・・・・・・」

「それからは忙しくて会いに行くことは出来なかったけど、奈未ちゃんをいつも見てた」

「どういうこと?」

それまで黙って僕の話を聞いていた奈未ちゃんが、僕を食い入るように見ながら質問をしてきた。