「三枝様、お久しぶりです」

そう言いながら、建物の影から姿を現したのは奈未ちゃんの執事の柊木さんだった。

「柊木さん、お久しぶりです。もしかして、今の僕と奈未ちゃんのやり取りを見てました?」

「申し訳ありません。少し話しをしませんか?」

「はい」

僕と柊木さんは近くのベンチに座った。

柊木さんはいつも姿勢がピンとしているし、話し方は穏やかで優しいし、めちゃめちゃイケメンだし執事にしておくにはもったいない人だと思った。

「僕はヒドいことを言いました。でも、奈未ちゃんの嘘が許せなくて。僕は柊木さんから送られてくる写真で色んな奈未ちゃんを見続けることが出来てますけど、奈未ちゃんは僕の何も見ていないし何も知らないじゃないですか?」

「そんなことはないですよ。詳細はお答え出来かねますが、お嬢様の仰っていることに嘘偽りはありません。それは私が保証します」

「???」

「言っている意味がわからないのは承知しております。でも、事実なんです。三枝様はお嬢様の気持ちを考えたことはありますか?きっとお嬢様に思いを寄せている三枝様なら少しは考えたことがあると思いますが、なぜお嬢様は小中とニューヨークのお嬢様学校に首席で通っていたのに、わざわざ日本の高校、しかもF高校に入学したと思いますか?」

確かに柊木さんの言う通り、そのことは常々疑問に思っていた。

奈未ちゃんの成績ならニューヨークでもトップクラスの高校に通うことが出来たはずなのに…。

何でだ?

「わかりませんよね?実はお嬢様は旦那さまとの約束で、中学生までは海外のトップクラスの教育を受けて沢山の作法や習い事をしなきゃいけませんでした。白川家の令嬢として相応しい人間になれたならば中学を卒業してから自分の進みたい道を歩んでもいいと」

「奈未ちゃんは何かやりたいことでもあったんですか?」

「はい。そのためにお嬢様は旦那様の言いつけを全て受け入れて従ってきました」

「それって何なんですか?教えて下さい」

「それはお嬢様本人から聞いた方がよろしいかと。お嬢様なら車の中におられますよ。私は外で待っているので、2人でゆっくり話しをしてみてはいかがですか?」

「わかりました…」