「そのことは、もういいんだ。でも、どうして戸籍謄本を?」

「それは…あなたの為よ。あなたは妹に会いたかったのに9年間も我慢してきたじゃない。せっかく同じ学校に通うようになったのに、あなたは自分が兄であることを打ち明けようともせず他人のふりをして妹に接触したじゃない。ちょっとやり過ぎな面もあったかもしれないけど、9年という長い年月を考えるとやむを得なかったと思ってる。ずっとあなたを見てきたから、あなたの気持ちは誰よりもわかってる」

「ずっと見てきたって?日本とニューヨークっていう遠く離れた場所にいたというのに何を見てきたっていうの?」

小学5年の夏に奈未ちゃんに会いにニューヨークに行き、乗馬クラブで会ってはいるけど、それを奈未ちゃんは知らない。

だから会ったとは言えない。

そう考えると僕らは1度も会っていないことになる。

会ってもいないし何の連絡も取り合っていない訳だから、僕を知ることなど出来っこない。

つまり奈未ちゃんは僕の何も知らない。

小学3年の数ヶ月の僕しか知らない。

「全てよ。あなたの全てを見てきたつもりよ」

「そんなの嘘だ。僕らはお互いのことを何も知らない。僕らはそれぞれ別の道を歩んで来たんだから」

少なくとも僕は、柊木さんから送られてくる奈未ちゃんの写真で色んな奈未ちゃんを見てきた。奈未ちゃんの成長と頑張り、その成果を見守り続けてきた。

「そんなことない。私はあなたの全てを知ってる。あなたのことなら知らないことなんてないわ」

「やめてよ。奈未ちゃんは僕の何も知らない。僕と一緒にいて、いつも僕を見つめてくれる人が僕にはいた。僕のことを全て知ってくれていた人がいた。すごく大切な人で心から愛していた。でも、それは奈未ちゃんじゃない」

パシッ――

奈未ちゃんに叩かれた。

当然だ。

とてつもなくヒドいことを言ってしまったんだから。

「あなたは何もわかってない。私の想いも、切なさも苦しみも…何もわかってない」

そう言うと、奈未ちゃんは口を押さえながら走り去ってしまった。

追いかけたかったけど、それが出来ない…邪魔をする僕がいた。