全てを香澄に話さなければならないという約束だった。

あの時はそれが香澄にとってもみんなにとっても良いことだと思っていたし、1日も早くその日が来ることを心待ちにしていた。

でも、月日が経ち僕も少しずつ大人になるにつれ、香澄に全てを話すことが本当に香澄にとって1番良い選択かどうか疑問に思うようになっていた。

わざわざツラいことを思い出させて苦しませることはないし、何より全てを投げ打って香澄の母親として生きることを選んだ詩織さんの気持ちを考えると、秘密は秘密のままにしておいた方が良いような気がした。

そして3月最後の日曜日、お父さんのマンションにみんなで集まり話し合いが行われた。

話し合いの結果、香澄にはお母さんが亡くなっていることと詩織さんのことは話さないことにした。

また僕が兄であることを告げるのは僕に任せられた。

そして香澄の学校生活が落ち着き始めた6月になったら、香澄がずっと会いたがっていたお父さんには香澄に会いに行ってもらうということで話がまとまった。

6月のある日、お父さんは放課後に香澄に会いに行った。

2人の再会のシーンは隠れて見守っていた。

香澄もお父さんも9年ぶりの再会に涙して喜んでいた。

僕だって嬉しかったし、涙なくしては見られなかった。

香澄がお父さんに心底会いたがっていたこと、休みの日になるとお父さんを探しに至る所に行っているのも詩織さんから聞いて知っていた。

登下校の途中でも買い物について行く時も外を歩いている時もどこに行くにも、いつもキョロキョロしてお父さんを探していたらしい。

それが悲しくも香澄の日課になっていた。

ファミレスでバイトを始めたのは家計を助けたいという理由もあるけど、お父さんがいつか立ち寄ってくれることを期待して始めたのかもしれなかった。

香澄は本当にお父さんのことが好きだった。

いつもお父さんの写真を持ち歩いているほど、香澄はお父さんのことが大好きだった。

だから2人の再会を心から祝福することが出来た。

僕の方はと言うと、香澄には僕が兄であることは敢えて伏せておくことにした。

僕の名字は三枝だし、何も言わなければ僕が兄であるという事実には辿り着くはずはない。

ただ、近くにいると思ってしまうと会わずにはいられなかった。

気づくと休み時間になると香澄のいる1年2組の教室に行ってしまう僕がいた。

そのせいで香澄は僕を不審がるようになっていったし、避けられているようにも感じた。

それでも、めげずに会いに行ったし、香澄のバイト先のファミレスに部活帰りに寄ったりもした。