一方、香澄とはあの悪夢の日から1度も会って話しをしていない。

記憶をなくした香澄を、お母さんの双子の妹である詩織さんが引き取ると決まった時から会っていない。

そうしようとみんなで決めたから。

そして香澄が記憶を取り戻すまでは秘密にしようと決めたから。

でも、会って話は出来ないけど、香澄の顔を見に行ったりしていたし、詩織さんから香澄の写真を頻繁に送ってもらっていたので、寂しさはあるけど近くにいる安心感はあった。

時は流れて中学3年生になった香澄はF高校を受験し合格した。

なぜ香澄がF高校を受験したのかはわからない。

詩織さんが勧めた訳でもないらしい。

でも香澄は中学1年の期末テスト前にはF高校を受験したいと詩織さんに言っていたらしい。

ちなみに僕は小中学時代の香澄の成績を知っていたので、F高校を受験すると聞いた時、耳を疑った。

香澄はどちらかと言うと勉強が出来るタイプではなかった。

香澄の学力ではかなり厳しいと思っていた。

でも、香澄は猛勉強をしてF高校の受験に合格した。

中学1年の終わりという早い段階で進路を決定し、それに向けて勉強をしたのが光を制したのだろう。

何が香澄をそうさせたのかはわからないけど、何かキッカケがあったのだろう。

理由はともかく、香澄が僕と同じ高校に入学して来たのは本当に嬉しかった。

これからはいつでも手の届くところにいてくれる。

1年2組の教室に行けば香澄と会うことが出来る。

そして禁断の扉が開かれる日も近いかもしれない。

お父さんと詩織さんとお婆ちゃんと僕の4人で交わされた約束…

香澄が高校生になるまで記憶が蘇らなかった場合、高校生になった香澄本人に全てを話すと…

お母さんが亡くなっていること…

香澄が9年の間、お母さんだと思って一緒に暮らして来たのは実はお母さんの妹の詩織さんだということ…

香澄には1つ上の兄がいてその人物は僕であるということ…