時は流れて僕はF高校の2年生になった。

今年の新1年生として香澄と奈未ちゃんが入学して来る。

奈未ちゃんと会うのは小学5年生以来だ。

そのあとは会っていない。

中学生になって部活が忙しいというのも、もちろんあった。

それもあったけど、1番の理由は結菜が亡くなったこと。

そして僕が結菜を死ぬほど好きだとわかったことだ。

奈未ちゃんを嫌いになった訳ではないけど、結菜が亡くなったあとも、結菜に対する気持ちが全く色褪せなかったからだ。

それどころか結菜への募る想いがどんどん大きくなって行った。

結菜が亡くなって2年が経つけど、今でも結菜に会いたくて声が聞きたくてどうしようもなくなる時がある。

悲しくて切なくて涙が溢れ出すことだってある。

どうしても結菜を忘れられなかった。

F高校は本来なら奈未ちゃんのようなお嬢様が入学する学校ではなかった。

他にいくらでもお金持ちの家の子が通うような学校はあったはずなのに、わざわざF高校を受験して入って来た。

4月8日。

朝練が終わり教室に戻ろうとすると、月に案内されて奈未ちゃんが僕の前に現れた。

数年ぶりの再会だった。

嬉しかった。

胸が踊った。

ずっと会いたい人だったから。

相変わらず、奈未ちゃんは他の女子にはない品と美しさを兼ね備えていた。

少しだけ話もした。

柊木さんから定期的に送られてくる写真で奈未ちゃんのリアルな姿はいつも見ることは出来たけど、実際に会ってみると、写真よりも格段にキレイで美しかった。

ニューヨークの学校では男子からは人気があったけど女子からは相当反感を買っていたらしく友達と呼べる友達はいなかったみたいだ。

お嬢様言葉で人を見下したような話し方は周囲の人間から「お高く止まっている」「嫌味ったらしい」「美人だけどツンとしていて冷たそう」「高飛車な女」などと誤解を招いていた。

本当はそんなことはなく、誰よりも優しくて思いやりのある人だ。

確かに白川家の令嬢として恥じないような生き方をさせられてきたし、彼女が持つものは一流品の高級ブランドのものばかりだ。

だけど、奈未ちゃんはそんな生き方をしたかった訳ではないし、高級ブランドが好きな訳ではないと柊木さんから聞いたことがある。

普通の女の子のようにお喋りをして笑って泣いて怒ったりしたいし、可愛いキャラクターの物を持ちたいとボソッと漏らしたことがあったという。

きっと奈未ちゃんは色んなことを我慢して生きてきたのだと思う。

白川家のお嬢様という重圧もあったと思う。

人には言えない苦労を強いられてきたに違いない。

僕にはそれがわかっているだけに、奈未ちゃんの行動1つ1つが愛おしく感じられる。