「もしそんなことをしたら、あの女の人ただの怪我じゃ済まなかったわよ。あなたホントにバカなんじゃないかしら」

「あの女…殺してやろうと思った。パパにちょっかいだしてるから」

「だと思ってた。下駄箱であなたが話しているのが耳に入ってきた。まさかと思って学校からあなたのあとをずっとついて来ていたのよ。正解だったわ」

「だからって私が何かをするなんてわかりっこないでしょ?」

「わかるわよ。あなたは憶えていないようだけど、私はあなたに、あなたがあの女の人にしようとしていたことと同じことをされたんだから」

「はぁ?何言ってんの?」

「だから、あなたは忘れてしまっているって言ったでしょ」

「何を忘れてって言うのよ?」

「色々と忘れてしまってるのよ。大切なことを何もかも…自分で思い出しなさい。私にはあなたの記憶が蘇るのを手伝う義理はないわ」

「何それ…」

自分でもわかってる。

過去の記憶の一部が欠落していることを…

でも、思い出せないし、誰もそのことに関して教えてくれる人はいなかった。

ママもパパも私が記憶を失っていることを知ってるはずなのに、そのことを話したことは1度もない。
まるで何もなかったかのように、この現実世界から消し去ろうとしていた。

「1つだけ教えておくわ。私は小学1年の時に公園のすべり台の上からあなたに突き落とされた。あなたは逃げてしまったから、私が1人で公園で遊んでいてすべり台から誤って転落したことになったけどね。救急車で病院に運ばれたわ。腕とか数カ所骨が折れていたから数日間、入院することになった」

「何で私が白川奈未を…そもそも私とあなたは過去に会ったことがあるっていうの?」

「あるわよ。短い期間だったけど、あなたと私ともう1人の3人でよく遊んでいたわ」

「ならホントに私はあなたをすべり台から突き落としたの?」

「そうよ。本当のことよ。あなたは何年経っても思考回路が変わっていなのね。どうしようもないバカね」

「私が…」

小学生の時…

公園で…

滑り台…

白川奈未を…


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「なみちゃん、うざい。死んで…」

ドンッ…

「キャッ」

ガッ…

バンっ…

ゴンッ…

先に滑り台の上に登っていた私は階段をあがり終えようとしていたなみちゃんを正面から突き飛ばした。

なみちゃんはうしろに回転しながら何度も体を打ちつけて下に転げ落ちていった。

気付いた時にはなみちゃんはすべり台の下に倒れていて身動き1つしなかった。

とてつもなく私は怖くなってその場から逃げ去った。

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「私…私…やってない。なみちゃんを滑り台から突き落としてなんかいない…」

私は1歩1歩後ずさりをして眼の前にいる白川奈未から少しずつ離れようとした。

「あなたは私を突き落とした。そして逃げた。私はあの時のことを忘れたことは1度だってない。私は何も悪いことをした訳じゃなかった。あなたに恨まれるようなことはしていない。ただ、私があなたと同じ人を好きになったばっかりに私はあなたに憎まれて殺されそうになった」

そうだった。

私には大好きな人がいた。

その人を独占したくて、誰にも取られたくなくて私はそうした。

その人とは…夢の中に出てきたモヤモヤがかかっていた人。

間違いなく幼い私はその人のことを好きだった。

好きだったなんて簡単な言葉では片付けられない程、私はその人を愛していた。

それなのに私はその人を思い出せない。

顔も名前も思い出せない。

一体誰なの?