「香澄ちゃん、今日はバイトなの?」

下駄箱で靴に履き替えていると、舞香が背後から私の肩に両手を置いて覗き込むように聞いてきた。

「うぅん、今日はない」

「どこかに寄ってく?」

「ごめん、今日は行くところがあって」

「どこか行くの?」

「ちょっとパパの職場にコッソリと行ってみようかと思って」

「お父さんに会いに行くんだ」

「違うよ」

「違うって?」

「パパにちょっかいを出してる女がいるみたいなの。見てこようかなって」

沙織と瑠美という女がパパと同じ職場にいるのは間違いない。

どんな女なのか見てみたい。

それにチャンスがあったら、その2人と話してみたい。

パパには私というカワイイ娘がいて、パパは私が世界で1番大好きで大切だから、ちょっかいを出すのをやめてくれと言ってやるつもり。

「変なことしないよね?」

「何、変なことって?」

「話しかけてお父さんに近づくのをやめてもらうように言うとか…」

「ダメかな?」

「大人どうしのことだから口を挟まない方が良いような気はするの」

「だっ‥大丈夫だよ。そんなことする訳ないじゃん」

「だったら良いんだけど…」

私があの女たちに話しかけるのはパパのためでもある。

どうせパパがカッコよくてお金を持ってるから言い寄ってきてるに違いない。

本当にパパのことを想ってくれている訳ではない。

真剣にパパのことを愛していて、パパの幸せを望んでいるのは私だけ。

「どいてくれるかしら」

「は?」

振り返ると白川奈美が腕組みをしてうしろに突っ立っていた。

「白川さん…」

今の話聞かれちゃった?

「どいてちょうだい。私は忙しいの。これから帰って習い事があるの。暇な庶民とは違うのよ」

「あっそうですか〜」

白川未奈は私の横を通り過ぎる時にわざと肩をぶつけていった。

私は頭にきて持っていた鞄を地面に叩きつけた。

「ちょっと待ちなさいよ!」

「何かしら?」

「今、わざと私のかっ‥」

「何でもありません。どうぞ行って下さい」

白川奈未に突っかかろうとしたら、舞香はすかさず割って入ってきた。

「ふんっ」

白川奈未は私をひと睨みしたあと、靴に履き替えて何事もなかったかのように行ってしまった。