「詩美が悪いんです」

「コイツが先に手を」

「コイツって言うなって言ってるでしょ!」

「うるせえんだよ!」

玖麗先生が私たちを引き離そうとしたけど、私は詩美の髪を掴んで離さなかった。

「いい加減にしろ!」

担任の張り裂けんばかりの怒鳴り声が廊下まで響き渡った。

「いつまでやってんだテメエら!」

玖麗先生は私と詩美の胸ぐらを掴むと、獲物を狩るハンターのような鋭い眼光で睨みを効かせてきた。

ヤバい…殺られる。

元レディースの頭だったって噂は本当だったんだ…。

迫力と圧力が半端ない。

いつもは純粋無垢なかわいい顔で笑顔をふりまいているアイドル先生なのに…

「殺さないで…」

「やめるから許してくれ」

詩美もそこそこ肝がすわっているはずなのに、玖麗先生の圧には叶わなかったようだ。

「もぉ〜や〜だ〜私、そんなことしないから〜」

可愛こぶりっ子してるけど、今更遅いよ。

クラス中の連中はドン引きしてるし、隣のクラスの生徒も集まってザワついているし…ご愁傷さま。

それから朝のホームルームが終わると、私と詩美は職員室に呼び出され、こっぴどく叱られた。

全部、詩美のせいだ。

絶対に許さない。

向こうから謝ってくるまで許すもんですか。

その日から私と詩美は話さなくなった。

私と舞香に近づかなくなった。

だから、詩美は教室でいる時は1人でいることが殆んどだったし、誰も寄せつかせないオーラを放っていたから話しかけようとするクラスメイトは誰一人いなかった。

話しは戻るけど、三枝先輩とは早退した日は会っていなかったのを思い出した。

私の周りでインフルにかかっている人間はいなかったし、舞香の話しだと学校でインフルになったのは、同時期で三枝先輩ぐらいだったという。

たまたま私の周りの人間は伝染らなかったし、三枝先輩の周りの人間も感染した人はいなかったという。

私はたぶんバイト先でお客さんに伝染された可能性が高いけど、三枝先輩は誰から伝染されたのだろう?

まぁ、どうでもいいことだけど。

逆に言い方は悪いけど、うるさいのがいなくてせえせえしてる。

帰りのホールルームが終わると、舞香は詩美に声をかけていた。

でも、詩美は優しい舞香の好意を台無しにするかのように、無視をして教室を出て行った。

「何なのあの態度。ホントにイラつくよ」

「仕方ないよ。詩美ちゃん、私が香澄ちゃんの味方をしていると思ってるみたいだから」

「実際、舞香は私の味方でしょ?」

「それは…2人のみかっ‥」

「私の味方に決まってるよね?」

「うっ‥うん」

舞香は詩美なんかより私の方が絶対好きなはずだから、私と一緒にいた方がいいに決まってる。

その方がメリットが多い。