「香澄っ」

パパがわたしの名前を何度も呼んでいるのがわかる。

嬉しい。

でも、その声に応えることが出来なかった。

ごめんね、パパ。

先立つ、不幸をお許しください。


目を開けると、どこかに寝かされていた。

直ぐに私の部屋だとわかった。

相変わらず体がダルいし、熱っぽい。

私はママが用意してくれた枕元の体温計を手に取り、熱を測ってみた。

ピピピ…ピピピ…

体温計が計測終了の合図を鳴らし始めたので、熱が何度あるのか確認してみた。

えっ…39.2度あった。

昼間に病院行って測った時も38.5度あった。

高熱じゃん。

ヤパイ、私死ぬかも…。

ちょっと待ってよ。

これってもしかして、インフルかコロナなんじゃないの?

こんなに急に熱が上がるなんてそうそうないでしょ。

とりあえず、解熱剤を飲もう。

私は重い体を起き上がらせて、フラフラしながら部屋を出て行った。

リビングから話し声が聞こえてきた。

笑い声も聞こえる。

ママ、誰と喋ってるの?

遠くから様子をうかがってはみたものの、声は聞こえても話している内容までは聞き取れなかった。

でもこの声って…パパだよね。

どうしてパパが?

どうしてというか、私を家まで連れて来てくれたのはパパなんだろうけど。

でも、どうしてパパとママが仲良くお喋りをしているわけ?

何で?

パパとママは仲が悪くて離婚したんじゃないの?

もしかして仲直りをしたの?

でも、そんな話は聞いたことないし、ありえない。

「じゃあ、これで僕は帰ります」

「彰さん、今日は本当にありがとうございました」

「いえ、体調が悪いのに、わざわざ僕に会いに来てくれて本当に嬉しかったです」

「あの娘、結構無茶するから心配なんです」

「香澄はあなたにホントに似ていますよ」

「そうですかね?」

「あなたは香澄の本当の母親ですよ」

何で2人は敬語で話してるの?

楽しそうに話しているけど、何かよそよそしい。

もと夫婦とは思えない。

それにパパは何を言ってるんだろう?