「じゃあね、バイバイ」

僕は腕の中で抱きしめられているコナンくんに向かってそう言った。

そして僕の体からコナンくんを離すと、改札に向かって走った。

振り返れなかった。

もしかしたら、コナンくんは僕に向かって手を振っていてくれてるかもしれない。

僕が振り向くのを待っているのかもしれない。

でも出来なかった。

涙でグチャグチャになった顔をコナンくんに見せる訳には行かなかった。


あれから1週間が経った。

僕が予想していた通り、コナンくんが姿を表すことはなくなっていた。

会いたかった。

一緒にいたかった。

苦しかったし悲しかった。

でも、これで良かったんだと自分に言い聞かせた。

これ以上、一緒にいたら本気でコナンくんを好きになってしまう。

後戻りが出来なくなってしまう。

僕には櫻井さんという大好きな人がいる。

たとえ結ばれなくても大好きで守りたいと思っている人がいる。

だから後悔はしていない。

後悔はしていないけど、胸が痛かった。


明日から新しい舞台公演が始まる。

今日は本番を見据えた最後の練習が行われた。

ようやくここまで来た。

毎日のように朝から晩まで沢山練習もしたし、失敗して何度も監督に怒られたことも合った。

芝居が自分の思うように出来なくて挫折しそうにもなった。

でも、諦めずに頑張って監督が認めてくれるような芝居が出来るようになった。

明日の公演が楽しみで仕方なかった。

練習を終えて外に出ると…

コナンくんが待っていた。

1週間ぶりに会うコナンくんに、胸が張り裂けんばかりに高鳴った。

「来てくれたんだね?」

コナンくんは静かに頷いた。

いつもと様子が違っていた。

当然なのかもしれない。

僕が全て悪かった。

コナンくんをここに来させないようにしたのは僕だ。

コナンくんはきっと以前のように僕に会いに来たかったに違いない。

でも、出来なかった。

色んな感情があった中で、コナンくんは必死の思いで来たんだろう。

「元気だった?」

「は…い」

コナンくんが僕の前で声を発したのはこれが初めてだった。

「どうした?」

僕の問いかけに、コナンくんは身動き1つしないで僕を見つめていた。

そしてコナンくんはゆっくりと帽子に手をかけた。

「なっ‥何を?」

帽子を取ると、中で収められていた長くてキレイな黒髪が姿を表した。

それよりも、どうして突然そのような行動に出たのか一瞬では判断できず、ただ事の成り行きを見守ることしか出来なかった。

するとコナンくんは今度はマスクを取り始めた。

「えっ…きみは…」

僕の目の前にはコナンくんであり、コナンくんではないその人が立っていた。