「悪いことじゃないから発表するけど、1人はさくっ‥」

「先生っ、そういうのやめましょうよ。その人が発表されることを望んでいるとは限りませんよ。それより解き方を教えて欲しいです」

先生の言葉を遮った僕の発言に、クラスの連中は何も言わず黙りこんでしまった。

一体どういう空気なんだ…。

「そっ‥そうか…それならあの問題の解き方を説明するからな」

僕の言葉の意図を汲んでくれたのか、先生は問題を解いた2人の名前を出すことはなかった。

授業が終わると、僕のもとに飯田くんが慌ててやって来た。

「彰、お前さんだよな?」

「何がだい?」

「全部言わせんなって。あんな言い方をしたら、僕ですって言ってるようなもんだぜ」

「そういうもんかな…」

【Nさんも、100点だったんですね】

飯田くんと話していたら彼女からメールが送られてきた。

【僕は櫻井さんと違って運が良かったんですよ】

【そんなことないと思います。Nさんの実力です】

【だったらいいんですけど…】

飯田くんが隣で話しているのを適当に相槌を打ちながら彼女とメールを交わしていた。

「彰、誰とメールしてるんだよ?」

「してないって」

「してるじゃん。ちょっと見せてくれよ」

「ダメだって」


「ちょっとだって」

飯田くんは僕が持っている携帯電話を強引に覗き込んできた。

「・・・・・」

「飯田くん?」

「あれ?何の話をしてたんだっけ?アハハハハ」

飯田くんは笑いながら教室から出て行ってしまった。

飯田くんは、僕が櫻井さんを好きなのを知っている。

僕がNとして彼女と手紙のやり取りをしていたこと、メールをしていることも知っている。

メールの内容を見て、これ以上はマズいと思ったのだろう。

「おっ‥おかしな人だよね」

横を何気なく見ると、こちらを向いている櫻井さんがいたので、慌ててそう言った。

すると彼女は恥ずかしそうに目を背けてしまった。