「蒼く~ん、待って~!」
 小学校低学年のとき。
 引っこみ思案でなかなか友だちができなかった私は、幼なじみの蒼くんにいつもついて回ってた。
 なにかとまとわりついてくる私を、蒼くんはイヤな顔ひとつせず、
「舞衣花、どうした? 今日は何して遊ぶ?」
 って、いつも相手してくれて。
 中学生になって、周りのみんながいろんな部活に入るなか、まだやりたいことが見つからなくて悩んでたとき、蒼くんが声をかけてくれたんだよね。
「舞衣花、ヒマだったらレコード聴きにこないか?」
 蒼くんのお父さんは、レコードコレクターで古い洋楽のレコードを買い集めては居間で聴くのが趣味だった。
「デジタル音源とはまた違った雰囲気で、いい曲もたくさんあるんだ」
 レコード、という言葉だけは知ってるけど、実物は見たことも聴いたこともない私は、興味半分で蒼くんの家に行ってみた。
「わぁ……」
 そこで聴いたのが、ある女性ミュージシャンの曲。
 外国語だったのでなんて歌ってるか分からなかったけど、少しかすれた歌声と、アコースティックギターの、少し切なさの漂う音色に私は魅了された。
「この曲、大切な人のことを心から想うって内容なんだ。『たとえ遠く離れたとしても、心はいつだっていっしょだから』って。けっこういい曲だろ?」
「うん……私、この曲歌ってみたいな」
 自然とそんな言葉が口をついて出た。
 それもカラオケじゃなくて、自分で演奏して歌ってみたい。
 アコースティックギターもまだ習ったこともないけど、いつか、このミュージシャンの女の人みたいに、弾き語りしてみたい。
 そんな想いが私のなかで広がったの。

 もちろん、はじめはとっても大変で、ギターの練習だけでも一苦労。コードひとつ覚えるだけで精いっぱい。辞書片手に歌詞にカタカナを振って、気がつけばテスト勉強よりも熱心に取り組んでた。
 中学生のときは軽音楽部がなかったから、高校に入ったら真っ先に入部して、練習の成果を蒼くんに見せるんだ。
 それを目標に、がんばってきたんだけど――。