「ごめんね、遅くなっちゃった」


急いでお風呂を終えて、香月雅が待つリビングへ向かう。出されたフカフカのスリッパを履いて、小走りで移動した。だけど履きなれていないため、リビングに入った途端。バランスを崩して、前のめる。


「――わっ!」

「おっと」


床へ一直線な私のお腹に回ったのは、逞しい香月雅の手。いとも簡単に私を抱き留め、素早く自分の方へと引き寄せた。王子様みたいな流れるような動きに、自分の心だけは流されまいと、気を強く持つ。


「仁奈はいつも可愛いけど、その恰好も可愛いね」

(〝いつも可愛いけど〟って、前置きから褒められてる……)


トクンと甘い高鳴りを見せた、私の心臓。気を強く持つと宣言した三秒後に、コレ。しっかりして私……。