その時。

カバンについている黒ネコと目が合った。私、カバンには何もつけない派だったのに……。でも、なぜだか嫌じゃない。可愛いなって思っちゃう。


(香月雅の隣を拒めないのは、もしかして〝私も知らない私〟になっていくのが楽しいのかも?なんて)


「ねぇ、仁奈」

「え、――んっ!」


ポーッとしていたら、いきなり降って来た唇。それは私の上唇をツツ…となぞった後、下唇を軽く吸って離れていく。


「な、んで……キス……!!」

「なんでって、俺がキスしたって言ったら、不満そうな顔したから。それなら仁奈自身に上書きしてもらおうと思って」

(だから、なんでよ!)


キスされながら、香月雅を睨む。角度的にすごい顔になってる私を見ても、張本人は嬉しそうにするばかり。一向に離れる気配がない。


(また、流されてる……!)


と思っているのに。香月雅の唇に、視線に、腰に回された手に。全ての神経をもっていかれる。