(――……しまった!)


また、のまれてた。


あれほど香月雅は危険な男だって、自分に言い聞かせているのに。

どうして私の脳は、かるがる境界線を飛び越えてお花畑に行ってしまうんだろう。危機感が全くない自分に、あきれ果てる。


「と、ところで小夜ちゃんは?」

「〝仁奈のことお願いしてもいい?〟って言われたから。代わりに俺が面倒みにきた」

「面倒って……。お願いされたからって、別に構わなくていいから……」

「俺が構いたくて構ってるんだよ。会えるはずなかったのに会えたら、素直に嬉しいでしょ」


言いながら私に「ハイ」と渡すのは、有名なショップのフラペチーノ。うわ、しかも私の好きな抹茶味!


「抹茶好きでしょ?」

「……こわ。なんで知ってるの?」


隣に座って来た香月雅から、一気に距離をとる。すると当人は悪びれることなく、猫毛の髪を揺らしながら、「学校で見るからね」と笑った。