「あ~なるほど。そういう事ね……OK、理解した」
私の顔を覗き込み、「仁奈」と名前を呼ぶ雅。彼の瞳に、顔を赤くした私がいる。
「俺〝その時〟まで手を出さない方がいいって思ってたけど。もう少し、柔軟に考えてみる」
「柔軟?」
「うん。味見くらいはいいかな?って事」
(味見……?)
それは一体どういうこと?と、聞くよりも早く。
まるで雅はお姫様の手を引くように、私の手を握り階段を上がった。私たちがいるべき教室からは、どんどん遠ざかっている。
「雅、授業は?」
「どうせ遅れちゃったしね。それより、せっかく仁奈と恋人になれたんだよ?もっと二人の時間がほしい」
「!」
目指す先が屋上だと知ったのは、雅が窓の外を見て天気を確認した時。「快晴だったら焼けてたね」と、たまに太陽を隠す雲を見ながらケラケラ笑った。