「またな、仁奈。連絡先を書いたメモは、破って捨てろ。その代わり、今度俺の前で沈んだ顔を見せたら、その時は無理やりでも連絡先を交換してやるからな」
「ふふ。ありがとう、響谷くん」
「じゃあ香月にもよろしく言っといて」
「うん」
響谷くんは私から離れ、教室に戻る。その背中を見送る間、心の中で「ありがとう」を言い続けた。
だけど、完全に姿が見えなくなる直前。響谷くんはヒョイっと、曲がり角の壁から顔だけ出す。
「もう一つ、香月に伝言を頼まれてくんね?」
「伝言?」
「俺は今回キセキ的に補習を逃れたから安心しろ、ってさ」
「!」
えぇ!そうなんだ、五点のテスト用紙を見せてくれた響谷くんとは別人だ!
思わず拍手を送った後、響谷くんは今度こそ教室に戻った。と同時に、授業の始まりを告げるチャイムが鳴る。
「あ、授業……さすがに出ないとね」
走れば間に合うかな?
グッと足に力を入れた、その瞬間。
「仁奈!」
「え、雅?」