「……っ」


当の姫岡さんも私と話をする気はなかったらしく、横をすり抜け廊下へ出て行った。ピリついた空気が、瞬時に緩む。

これからも、こういった事は続くだろう。それほどまで女子を魅了してきた人だ。雅の果てない魅力に、自分の彼氏ながらビックリする。


「見た、今の?」
「見た~姫岡さんかわいそう」


姫岡さんのクラスの女子が、私を見てヒソヒソ話を始める。

あぁ、空気が重い。足が重い。頭も重い。こんなことに負ける私じゃないけど、笑って流せるほど強くもない。

帰りたい――足を後退させた、その時だった。


「そういうのやめろよ、みっともねぇ」


まるで鶴の一声のように。
響谷くんの凛とした声が、教室に響いた。