「泣いたから、しょっぱいね」

「!」


言わなくていい、感想を述べなくていい、再びなめようとしなくていい!

涙じゃなくて、汗かもしれないじゃん!むしろ、家を出てから全力疾走したから、後者の可能性の方が高い!


「ね、ねぇ!あのさ!」

「んー、なに」


なに?と言いながら上唇を吸われる。反射で「きゃう」と声をあげると、彼の導火線に火をつけてしまったのか。瞳のギラつきが濃くなった。


「仁奈。口、あけて?」

「!?」


さすがに、これ以上は――!

素早く互いの唇の間に手を入れ、行為をむりやり中断する。私が空に向かって伸ばした指の向こうで、香月雅は不満げな顔をしている。

やばい。このままだとスグに手をはらわれ、再びキスされる。また流されてしまう。それだけは阻止しないと……!


「み、雅……!」


正気に戻ってもらうため、イチかバチか名前を呼ぶ。

思えば、私はいつもフルネーム呼びだった。それなのに、いきなり名前を呼び捨て……なんて。図々しかったかな?小夜ちゃんみたいに「香月くん」って呼んだ方が、可愛げがあったかも。