最後の方は、聞こえるか聞こえないかの声。だけど、きっと届いてる。
だって香月雅の全身が、私を捉えて離さないのだから。腕も、手も、視線も……全てを使って、私を逃がさまいとしてる。
そんな彼に、さっきの言葉が聞こえないワケがない。その証拠に。
「……あ~、むり」
「むり?」
「ねぇ仁奈、キスしたい。うんと激しいやつ」
「いや、ここ外だし無理だよ。できない」
「……さっきは〝遠慮なく〟って言ったくせに」
言ったけども。「時と場合による」ってのが大前提にある。
社会の秩序を乱す行いを、おいそれと許可していたら……きっと私たちは近い未来、とんでもないハレンチカップルになるに違いない。
ようは、それはそれ。これはこれ。
だけど納得いかないのか、香月雅の瞳がキラリと光る。私をブロック塀に追い詰め、電柱を使って通行人から上手く隠した。
本人は「上手いでしょ?」と得意げだけど、キスの許可はできない。できないったらできない。