バイト終わり、スーパーに寄ってから帰宅
扉を開ければ、小さな生き物が私を待ち構えていた


「にゃー」


まるで、『おかえり』とでも言うように
可愛らしい鳴き声をあげながら
私の足元にすり寄ってくる小さな黒猫


「くろ」


荷物を棚の上に置いて
その小さな身体を抱き上げる


「ただいま」




雨の日に
ずぶ濡れで、道端でうずくまっていた小さな黒猫

私が保護して、引き取り手が見つかるまでと
しばらくお世話をしていた

猫好きのミレイさんが
すぐに引き取りを申し出てくれたけど
結局、私がこの子と離れがたくなって
いつきさんの許可をもらい、この家で飼うことになった

なんの捻りもなく、真っ黒だから
そのまま『くろ』と名付けた

保護した時と比べて
少し大きくなった気はするけど
まだまだ軽いその体



「ごはん、もう少し待っててね」

「にゃう」



応えるように鳴く、くろを抱えて
私は夕食の準備をしに、キッチンへ向かった





調理道具の片付けをしていると
ずっと足元で大人しくしていたくろが
ぴくりと耳を動かして、キッチンから離れて
どこかへ向かう


あ、帰ってきたかな


くろを追いかけていけば、案の定
玄関先でお行儀よくお座りしていた


程なくして、がちゃりとドアが開いて



「ただいま」



優しい笑顔が視界に映る



「おかえりなさい」

「にー」



出迎えの言葉を口にすれば
呼応するように、くろも鳴く


「本当に、猫なのに犬みたいだね。くろは」


足元にすり寄るくろを抱き上げたいつきさんは
おかしそうに口の端を上げる


いつからだったか、覚えていないけど
気づいた時には、くろはこんな風に玄関先で
私やいつきさんの見送りや出迎えをするようになっていた


「癒されます」


動物を飼っていると
ストレスが緩和されるとよく聞くけれど
本当にその通りで

その姿を見る度に、自然と笑みがこぼれる

そのふわふわで柔らかい身体を
撫でたり、抱っこしたり
触れればもっと癒されて

しゃべれなくても、何もできなくても
ただそこにいるだけで
人を癒すことができるのだから
動物って不思議


「にゃー、にゃー」


抱っこして、撫でてもらって
ひとしきり満足したのか
くろは何かを催促するように鳴いた


「ごはん、食べましょうか」

「うん」



いつきさんと顔を見合せ
笑いながら、食卓についた