王城の奥に、星見の塔という場所がある。
名前のとおり、星が眺められる高い塔だ。
処刑の後、殿下に誘われて、私は塔の上で綺麗な星空を鑑賞した。
「アシュリー嬢は、男性が嫌いになったと聞いたことがある。言っても構わない。私を愛さない、と。好意を強要したりはしないから」
私の婚約者になったウィリアム殿下はそう言って、手を差し出した。
「今までどおりに好きな仕事をつづけてもいい。もちろん、辞めてもいい……つまり、自由ということなのだけど」
手を重ねると、指先がちょっと冷えている。
あたためてあげたい。自然とそんな気持ちが湧く。
「恋文にも書いたけど、言葉でも言おう。あなたを愛している。好きだ。だから、結婚したいんだ。他の男とではなくて、私と結婚してほしいんだ。ずっとずっと想ってたんだ。諦めようとしたけれど、諦めきれなかったんだ」
満天の星空が頭上に広がる中、ウィリアム殿下は一生懸命な声を響かせた。
「私のことを好きになってくれなくてもいい。でも、あなたが嫌なことはしないし、喜ばせられるように努力する。好きになってもらえるように、がんばるよ」
形式的な婚姻でもいい。一方的に捧げ、尽くす覚悟がある。
愛されなくても、愛す。幸せにする。
ウィリアム殿下がそう宣言する声は、凛としていた。
その緑の瞳が、塔の明かりに照らされてキラキラしている。
私はその輝きが、今までに見たどんな宝石よりも美しいと思った。
「殿下を愛することは、ありません」
「っ……!!」
「と、申し上げようと思ったけど、もう遅いみたいです」
綺麗な瞳が、私の目の前でパチパチと瞬きしている。
まるで、空から星が降りてきたみたい。
この星は、私を愛してくれる星なのだ。私の特別な一番星なのだ。
……そんな愛しさがこみあげた。
「殿下を好ましく思っています。お慕いしております。あなたに好意をいただいて、嬉しいです。嬉しい気持ちを、お返ししたいです。あなたを喜ばせたいと、思うのです……そう思うように、なったのです」
ぽつり、ぽつりと雨垂れがしたたるように言葉を選べば、殿下は奇跡に出会ったみたいな顔をした。
「殿下のもとに、私の父が贈った猫がいましたね?」
「ああ、うん」
護衛任務の話は、すでに上司や父が殿下に説明済らしい。
でも、自分の口でも話したい。そう思えるだけの気持ちが、私の中で育っていた。
「メイメイは、私なのです」
「うん」
殿下は、すでに知っている。けれど「知っているよ」なんて無粋なことは言わなかった。そういう心根が、好ましい。
「寝所に侍るのは申し訳なく、罪悪感を覚えるときもありましたが、お守りするためでしたので」
「護衛に感謝しているよ。ありがとう……その、私がいろいろな無礼を働いたと思うけど。うん……ごめんね」
撫でたり抱っこしたり、吸ったり。
そういえば色々なことがあった。
「あの日々は、今思えばなかなか楽しかったです。……癒されました」
「私も、メイメイにはとても癒されたよ」
もしかして、父はこれを狙っていたのだろうか?
このピュアな殿下の恋心で私の男性嫌いを癒して、くっつける……とか?
上司と父は仲が良いのだ。
二人して共謀すれば、しようと思えばできるといえば、できるけど……まさか。
そんな思いが湧きつつ、私は邪念を払って目の前の殿下に意識を戻した。
「結婚式は、早めにしよう」
ウィリアム殿下はそう言って、私の手を取った。
耳に心地よい甘やかな声を紡ぐ唇が、無言で私の指先に口付けをしてくれる。
自分の肌が発する熱で溶けるのではないかというくらい、触れられた部分が熱い。
「はい、殿下」
「ウィリアムと呼んでほしい」
唱うように淀みのない声で、殿下は神聖に光り輝くような言葉をつむいだ。
「私は永遠にあなたを守り、愛し続けることを誓う。あなたと共に歩む未来への道に、愛と幸福をいっぱいいっぱい敷き詰めるから、どうか私の妻となってほしい」
「はい……」
想いにこたえる言葉を返して頷けば、腰が抱き寄せられる。
渇望をたたえた目には余裕がなくて、必死な感じで、私はどきどきした。
「……いい?」
問いかけは、秘密の香りがした。
甘えるように近付く吐息に睫毛を伏せて頷けば、吐息を熱くからめるようにして唇を奪われる。
キスをする一瞬が、永遠に思える。
触れ合う体温が愛しくて、どうか離さないでほしいと願ってしまう。
幸せな気持ちがふわふわとあふれて、涙がこぼれてしまいそう。
人払いをした、塔の上。
星空を背景に交わす愛の誓いは神聖で幸せで、特別な思い出になったのだった。
――Happy End!
名前のとおり、星が眺められる高い塔だ。
処刑の後、殿下に誘われて、私は塔の上で綺麗な星空を鑑賞した。
「アシュリー嬢は、男性が嫌いになったと聞いたことがある。言っても構わない。私を愛さない、と。好意を強要したりはしないから」
私の婚約者になったウィリアム殿下はそう言って、手を差し出した。
「今までどおりに好きな仕事をつづけてもいい。もちろん、辞めてもいい……つまり、自由ということなのだけど」
手を重ねると、指先がちょっと冷えている。
あたためてあげたい。自然とそんな気持ちが湧く。
「恋文にも書いたけど、言葉でも言おう。あなたを愛している。好きだ。だから、結婚したいんだ。他の男とではなくて、私と結婚してほしいんだ。ずっとずっと想ってたんだ。諦めようとしたけれど、諦めきれなかったんだ」
満天の星空が頭上に広がる中、ウィリアム殿下は一生懸命な声を響かせた。
「私のことを好きになってくれなくてもいい。でも、あなたが嫌なことはしないし、喜ばせられるように努力する。好きになってもらえるように、がんばるよ」
形式的な婚姻でもいい。一方的に捧げ、尽くす覚悟がある。
愛されなくても、愛す。幸せにする。
ウィリアム殿下がそう宣言する声は、凛としていた。
その緑の瞳が、塔の明かりに照らされてキラキラしている。
私はその輝きが、今までに見たどんな宝石よりも美しいと思った。
「殿下を愛することは、ありません」
「っ……!!」
「と、申し上げようと思ったけど、もう遅いみたいです」
綺麗な瞳が、私の目の前でパチパチと瞬きしている。
まるで、空から星が降りてきたみたい。
この星は、私を愛してくれる星なのだ。私の特別な一番星なのだ。
……そんな愛しさがこみあげた。
「殿下を好ましく思っています。お慕いしております。あなたに好意をいただいて、嬉しいです。嬉しい気持ちを、お返ししたいです。あなたを喜ばせたいと、思うのです……そう思うように、なったのです」
ぽつり、ぽつりと雨垂れがしたたるように言葉を選べば、殿下は奇跡に出会ったみたいな顔をした。
「殿下のもとに、私の父が贈った猫がいましたね?」
「ああ、うん」
護衛任務の話は、すでに上司や父が殿下に説明済らしい。
でも、自分の口でも話したい。そう思えるだけの気持ちが、私の中で育っていた。
「メイメイは、私なのです」
「うん」
殿下は、すでに知っている。けれど「知っているよ」なんて無粋なことは言わなかった。そういう心根が、好ましい。
「寝所に侍るのは申し訳なく、罪悪感を覚えるときもありましたが、お守りするためでしたので」
「護衛に感謝しているよ。ありがとう……その、私がいろいろな無礼を働いたと思うけど。うん……ごめんね」
撫でたり抱っこしたり、吸ったり。
そういえば色々なことがあった。
「あの日々は、今思えばなかなか楽しかったです。……癒されました」
「私も、メイメイにはとても癒されたよ」
もしかして、父はこれを狙っていたのだろうか?
このピュアな殿下の恋心で私の男性嫌いを癒して、くっつける……とか?
上司と父は仲が良いのだ。
二人して共謀すれば、しようと思えばできるといえば、できるけど……まさか。
そんな思いが湧きつつ、私は邪念を払って目の前の殿下に意識を戻した。
「結婚式は、早めにしよう」
ウィリアム殿下はそう言って、私の手を取った。
耳に心地よい甘やかな声を紡ぐ唇が、無言で私の指先に口付けをしてくれる。
自分の肌が発する熱で溶けるのではないかというくらい、触れられた部分が熱い。
「はい、殿下」
「ウィリアムと呼んでほしい」
唱うように淀みのない声で、殿下は神聖に光り輝くような言葉をつむいだ。
「私は永遠にあなたを守り、愛し続けることを誓う。あなたと共に歩む未来への道に、愛と幸福をいっぱいいっぱい敷き詰めるから、どうか私の妻となってほしい」
「はい……」
想いにこたえる言葉を返して頷けば、腰が抱き寄せられる。
渇望をたたえた目には余裕がなくて、必死な感じで、私はどきどきした。
「……いい?」
問いかけは、秘密の香りがした。
甘えるように近付く吐息に睫毛を伏せて頷けば、吐息を熱くからめるようにして唇を奪われる。
キスをする一瞬が、永遠に思える。
触れ合う体温が愛しくて、どうか離さないでほしいと願ってしまう。
幸せな気持ちがふわふわとあふれて、涙がこぼれてしまいそう。
人払いをした、塔の上。
星空を背景に交わす愛の誓いは神聖で幸せで、特別な思い出になったのだった。
――Happy End!