「あっ、アシュリー嬢? あれ、メイメイは?」
ウィリアム殿下が目を覚まして、戸惑っている。
「ゆ、夢? 夢かな。彼女が私の寝所に……あれ」
「暗殺者です! 応援を!」
叫ぶと同時に、寝室の外にいた護衛たちが部屋になだれこんでくる。
せっかくさっき寝付いたところだったのに。
殿下の朝は早いのに。貴重な睡眠時間が減ってしまう。
「お騒がせして申し訳ありませ……、っ、殿下!」
室内にもう一人忍び込んでいたらしき暗殺者が魔法を放つのが見える。
「アシュリー嬢!」
殿下が声をあげて、私に覆いかぶさるようにして倒れ込んだ。押し倒される形で、二人一緒になってベッドに倒れ込む。
頭上を暗殺者が放った赤い魔法の光が走り抜けていく。ぎりぎりの回避だ。
押し倒された拍子に、私たちは勢いあまって唇が接触していた。そのやわらかで特別な感触に、胸の鼓動が跳ねあがる。
「……!!」
「あっ」
ウィリアム殿下が驚いて目を見開いている。頬が赤い。
私も似たような表情をしているだろう。
(あああ~~!!)
貴き唇を奪ってしまった。キスしてしまった。
「違うんです殿下、これは任務で、事故なのです! ほら、暗殺者があそこに」
「へっ!?」
「さっきのは、殿下が私を守ってくださった結果の衝突事故です。ああしなければ私は今頃……丸焦げチキンになっていたかもしれませんっ、本当にありがとうございました!」
「ま、丸焦げチキン?」
今のは事故なので、お互い気にしないのがいいと思うのです!
暗殺者が魔法を使ったので、守ったのです!
暗殺者はもう拘束しました!
早口で説明して、私は真っ赤な顔を隠すように逃げ出した。
「護衛任務はこれで終わりですね。失礼します、さようならっ、ゆ、ゆっくり休んでくださいませ……あと、殿下は睡眠時間が不足気味だと思います、もっと朝はゆっくりなさってください……っ」
前から思っていたのだ。健康が心配だなって。
猫のメイメイが私だとは、私の口からは言えなかった。
任務を手配した上司や父伯爵が、後始末してくれるに違いない。
(私は任務をこなしただけ。あとは知りません!)
と、そう思っていたのだけれど。
シュアファルカ伯爵家には翌日、ウィリアム殿下からの手紙が正式に届けられた。
「アシュリー! 殿下はお前との婚約をお望みだ!」
父であるシュアファルカ伯爵は嬉しそうに言って、「熱烈に恋慕の情がつづられているぞ!」と恋文をみせてくれた。
恋文には、猫の私に語ったような恋心が丁寧につづられている。殿下お得意の恋愛ポエムも添えられていた。
婚約者だったレイファンは、こんなに好意を向けてくれなかった。
こんなの、はじめて。
「家門の名誉だ。政略のみの婚約でもお受けしたいところだが、愛があるというのだ。素晴らしいではないか、アシュリー? 殿下はお前を大切にすると誓ってくださっているぞ。な、な、アシュリー? お受けしないか? どうかな? 嫌か?」
父シュアファルカ伯爵は、私の気持ちを気にしてくれる様子だった。
「……そ、そうですね」
私はふわふわと頬を染めた。
父は、私のことをとても心配してくれていた。
安心させてあげたい――そんな気持ちと一緒に湧くのが、奇妙な喜びだった。
(私、喜んでる……?)
そう、私は殿下からのアプローチを嬉しく思っているのだ。そんな自覚があった。
思い出されるのは、猫になって過ごした日々だった。
殿下は、好ましい人だった。私は、好ましく思っている……。
「お、お受けします」
こうして、私は殿下と婚約した。
ウィリアム殿下が目を覚まして、戸惑っている。
「ゆ、夢? 夢かな。彼女が私の寝所に……あれ」
「暗殺者です! 応援を!」
叫ぶと同時に、寝室の外にいた護衛たちが部屋になだれこんでくる。
せっかくさっき寝付いたところだったのに。
殿下の朝は早いのに。貴重な睡眠時間が減ってしまう。
「お騒がせして申し訳ありませ……、っ、殿下!」
室内にもう一人忍び込んでいたらしき暗殺者が魔法を放つのが見える。
「アシュリー嬢!」
殿下が声をあげて、私に覆いかぶさるようにして倒れ込んだ。押し倒される形で、二人一緒になってベッドに倒れ込む。
頭上を暗殺者が放った赤い魔法の光が走り抜けていく。ぎりぎりの回避だ。
押し倒された拍子に、私たちは勢いあまって唇が接触していた。そのやわらかで特別な感触に、胸の鼓動が跳ねあがる。
「……!!」
「あっ」
ウィリアム殿下が驚いて目を見開いている。頬が赤い。
私も似たような表情をしているだろう。
(あああ~~!!)
貴き唇を奪ってしまった。キスしてしまった。
「違うんです殿下、これは任務で、事故なのです! ほら、暗殺者があそこに」
「へっ!?」
「さっきのは、殿下が私を守ってくださった結果の衝突事故です。ああしなければ私は今頃……丸焦げチキンになっていたかもしれませんっ、本当にありがとうございました!」
「ま、丸焦げチキン?」
今のは事故なので、お互い気にしないのがいいと思うのです!
暗殺者が魔法を使ったので、守ったのです!
暗殺者はもう拘束しました!
早口で説明して、私は真っ赤な顔を隠すように逃げ出した。
「護衛任務はこれで終わりですね。失礼します、さようならっ、ゆ、ゆっくり休んでくださいませ……あと、殿下は睡眠時間が不足気味だと思います、もっと朝はゆっくりなさってください……っ」
前から思っていたのだ。健康が心配だなって。
猫のメイメイが私だとは、私の口からは言えなかった。
任務を手配した上司や父伯爵が、後始末してくれるに違いない。
(私は任務をこなしただけ。あとは知りません!)
と、そう思っていたのだけれど。
シュアファルカ伯爵家には翌日、ウィリアム殿下からの手紙が正式に届けられた。
「アシュリー! 殿下はお前との婚約をお望みだ!」
父であるシュアファルカ伯爵は嬉しそうに言って、「熱烈に恋慕の情がつづられているぞ!」と恋文をみせてくれた。
恋文には、猫の私に語ったような恋心が丁寧につづられている。殿下お得意の恋愛ポエムも添えられていた。
婚約者だったレイファンは、こんなに好意を向けてくれなかった。
こんなの、はじめて。
「家門の名誉だ。政略のみの婚約でもお受けしたいところだが、愛があるというのだ。素晴らしいではないか、アシュリー? 殿下はお前を大切にすると誓ってくださっているぞ。な、な、アシュリー? お受けしないか? どうかな? 嫌か?」
父シュアファルカ伯爵は、私の気持ちを気にしてくれる様子だった。
「……そ、そうですね」
私はふわふわと頬を染めた。
父は、私のことをとても心配してくれていた。
安心させてあげたい――そんな気持ちと一緒に湧くのが、奇妙な喜びだった。
(私、喜んでる……?)
そう、私は殿下からのアプローチを嬉しく思っているのだ。そんな自覚があった。
思い出されるのは、猫になって過ごした日々だった。
殿下は、好ましい人だった。私は、好ましく思っている……。
「お、お受けします」
こうして、私は殿下と婚約した。