明るい陽射しを浴びて、ウィリアム殿下の茶髪が綺麗な金色の艶をみせている。
明らかにお忍びな格好だ。この人、お忍びとかするんだ。
私が護衛していた3か月間ではなかったことだった。
「アシュリー嬢、私は第一王子のウィリアムです。アシュリー嬢は才能ある魔法使いとお聞きしています。お会いできて嬉しいです」
丁寧な話し方だ。敬意を感じる。
「で、殿下。ご機嫌うるわしゅうございます……お忍びでいらっしゃいますでしょうか?」
「ええ。お忍びです。紅茶をどうぞ。このお店のエルダーフラワーティーは、人気らしいです」
礼儀正しい。お忍びと言いつつ、堂々と名乗ってくる。見た目も華やかなエルダーフラワーティーを差し出してきたりする。
「最近、お見かけしないと思っていたのです」
ウィリアム殿下は気品が匂い立つような笑顔を浮かべて、優雅に紅茶のカップを傾けた。
それだけの所作で周囲の席にいる女性から「きゃあ」と黄色い声があふれるのがすごい。
美しい容姿にくわえて上流階級の隠しきれない育ちの良さや高貴なオーラが所作のひとつひとつに出ているものだから、どんどん注目される。
「この紅茶のポットは、アシュリー嬢が3年前に学会に発表された魔法理論を元に設計された冷温保持ポットらしいです」
「さようでしたか。私の魔法理論が王都の民の生活に役立てられているのは嬉しいですね」
紅茶は美味しい。
でも、殿下と周りが気になって味に集中できない。
「アシュリー嬢は任務で王都を離れていらしたのでしょうか? 調べてもわからなくて、あ、いえ、情報を求めているわけではないのです。機密というものがありますよね、わかります。お仕事お疲れ様です」
「もったいないお言葉でございます」
この様子だと、嫌われてはいないみたい。というより、好意を感じる。とても。
「そうそう、最近、猫を飼っているんです。ここ数日は、健康状態を診るというので医療院にいるのですが。面会もできなくて……心配だな」
「は、はあ」
「伯爵は猫の代わりにと犬を贈ってくださったのですが、名前をつけて可愛がっていた子ってやっぱり特別ではありませんか。代わりなんて……」
「え、ええ。わかります」
「ああ、あの、もちろん伯爵を責めているわけではないのですよ。あなたに似ているなって思って、名前をメイメイってつけたと言ったら……気持ち悪いですか」
「はっ? え、いえ。そうでしたか」
(まあ、私が変身したので。色合いが似ているのは、自分でもそう思います)
「綺麗で、吸い込まれるような魅力的な色で。つまり、あなたの目が美しいというお話なのですが」
「それは、ありがとうございます」
この殿下、こんな感じだったかな?
もっと余裕があって、社交スキルも高いと思っていたけど、今日はなんだか様子がおかしい。
「ご存じでしょうか、私は以前アシュリー嬢に暗殺者から守っていただいたことがあるのです」
「それは仕事ですから」
そういえば以前、助けたことがあった。
それで恩を感じているらしい。
しかしそれにしても、こちらを見てくる目がちょっとキラキラし過ぎでは。
「私はそろそろ戻りますので、また」
お別れを告げると、殿下は慌てた様子で立ち上がった。そして、青年らしい溌剌とした声を放った。
「はい。またお会いしましょう。あなたがお元気そうでよかった、本当に! お話できてよかったです!」
「光栄です」
なんだか、こっちが王族になったみたい。
恭しく礼をして、背を向ける。
使用人に囲まれて、私は伯爵邸へと帰宅した。
休暇を終えて護衛の任務に戻ると、ウィリアム殿下は大喜びで猫の私を抱っこした。
「おかえり、メイメイ。病気じゃなかったんだって? よかった……!」
殿下はその夜、猫の私を構い倒しながら、「アシュリー嬢に会ったんだ!!」と興奮気味にお話なさったのだった。
明らかにお忍びな格好だ。この人、お忍びとかするんだ。
私が護衛していた3か月間ではなかったことだった。
「アシュリー嬢、私は第一王子のウィリアムです。アシュリー嬢は才能ある魔法使いとお聞きしています。お会いできて嬉しいです」
丁寧な話し方だ。敬意を感じる。
「で、殿下。ご機嫌うるわしゅうございます……お忍びでいらっしゃいますでしょうか?」
「ええ。お忍びです。紅茶をどうぞ。このお店のエルダーフラワーティーは、人気らしいです」
礼儀正しい。お忍びと言いつつ、堂々と名乗ってくる。見た目も華やかなエルダーフラワーティーを差し出してきたりする。
「最近、お見かけしないと思っていたのです」
ウィリアム殿下は気品が匂い立つような笑顔を浮かべて、優雅に紅茶のカップを傾けた。
それだけの所作で周囲の席にいる女性から「きゃあ」と黄色い声があふれるのがすごい。
美しい容姿にくわえて上流階級の隠しきれない育ちの良さや高貴なオーラが所作のひとつひとつに出ているものだから、どんどん注目される。
「この紅茶のポットは、アシュリー嬢が3年前に学会に発表された魔法理論を元に設計された冷温保持ポットらしいです」
「さようでしたか。私の魔法理論が王都の民の生活に役立てられているのは嬉しいですね」
紅茶は美味しい。
でも、殿下と周りが気になって味に集中できない。
「アシュリー嬢は任務で王都を離れていらしたのでしょうか? 調べてもわからなくて、あ、いえ、情報を求めているわけではないのです。機密というものがありますよね、わかります。お仕事お疲れ様です」
「もったいないお言葉でございます」
この様子だと、嫌われてはいないみたい。というより、好意を感じる。とても。
「そうそう、最近、猫を飼っているんです。ここ数日は、健康状態を診るというので医療院にいるのですが。面会もできなくて……心配だな」
「は、はあ」
「伯爵は猫の代わりにと犬を贈ってくださったのですが、名前をつけて可愛がっていた子ってやっぱり特別ではありませんか。代わりなんて……」
「え、ええ。わかります」
「ああ、あの、もちろん伯爵を責めているわけではないのですよ。あなたに似ているなって思って、名前をメイメイってつけたと言ったら……気持ち悪いですか」
「はっ? え、いえ。そうでしたか」
(まあ、私が変身したので。色合いが似ているのは、自分でもそう思います)
「綺麗で、吸い込まれるような魅力的な色で。つまり、あなたの目が美しいというお話なのですが」
「それは、ありがとうございます」
この殿下、こんな感じだったかな?
もっと余裕があって、社交スキルも高いと思っていたけど、今日はなんだか様子がおかしい。
「ご存じでしょうか、私は以前アシュリー嬢に暗殺者から守っていただいたことがあるのです」
「それは仕事ですから」
そういえば以前、助けたことがあった。
それで恩を感じているらしい。
しかしそれにしても、こちらを見てくる目がちょっとキラキラし過ぎでは。
「私はそろそろ戻りますので、また」
お別れを告げると、殿下は慌てた様子で立ち上がった。そして、青年らしい溌剌とした声を放った。
「はい。またお会いしましょう。あなたがお元気そうでよかった、本当に! お話できてよかったです!」
「光栄です」
なんだか、こっちが王族になったみたい。
恭しく礼をして、背を向ける。
使用人に囲まれて、私は伯爵邸へと帰宅した。
休暇を終えて護衛の任務に戻ると、ウィリアム殿下は大喜びで猫の私を抱っこした。
「おかえり、メイメイ。病気じゃなかったんだって? よかった……!」
殿下はその夜、猫の私を構い倒しながら、「アシュリー嬢に会ったんだ!!」と興奮気味にお話なさったのだった。